あたたかいもの

その人は温かいものが好きでした。
茶店で注文するのはいつも温かい飲み物。さらに、うんと甘くして飲むのが好きでした。甘いミルクココアに砂糖を入れる、というふうに。
ねえ、なぜあなたははそんなに温かくて甘いものばかり飲むのですか?
その人は答えました。
私、温かいものが本当に好きなのです。温かくて、甘いもの。心が落ち着いて幸せな気持ちになるのです。カリカリした心が、安らぐのです。
私、冷たいものは嫌いなのです。冷たくて、辛いもの。すっぱいもの。苦いもの。怖くて仕方がありません。ねえ、あなただって本当はそうでしょう?
私はコーヒーをブラックで飲むのが好きでしたが、その人の気持ちが分からないわけでもありませんでした。
夏のある暑い日、私はその人にアイスレモンティーを出しました。温かいものが好きだと知っていましたが、溶けるような暑さだったものですから、冷たいものを出したのです。
その人はアイスレモンティーを見て、一口飲みました。そして、涙を流しました。
ごめんなさい、少し濃く淹れすぎましたか。レモンがすっぱかったですか。冷たすぎましたか。あなたを泣かせるつもりはなかったのです。ああ、震えているではありませんか。そんなに、泣かないでください。ガムシロップを持ってきますか。
えぇ、えぇ、良いのです。あなたは、悪くありません。私がいけないのです。少しでも、苦くてすっぱくて、冷たいものに、耐性が、ないのです。大丈夫です、涙が勝手に、出てくるだけです。ごめんなさい。
その人はポロポロと涙を流しました。