いいもの

「あのね、雨は、空気をきれいにするでしょう?いやなものが全部流れて、新しくなると思うの」
彼女がそう言って、私は「なるほどね」と言った。雨はいやなものを流すけれど、いいものも流してしまいそうだ、などと少し思ったけれど
彼女の瞳があまりにも、雨をまっすぐに見つめていたので 私は「なるほどね」と、言うしかなかったのです。


ある日、雨の中家路を辿る。靴は濡れてしまうしあまりいいものじゃない。
でも 空気がきれいだ。紫陽花の色が濃く香る。
きらいな蚊柱も今日はなく、小さな虫はちらばり輝く。
私は「なるほどね」と言った。雨はいやなものしか流さない
輝く虫を片手で払う


彼女の瞳を思い出しながら、午後の虹がかかったのを見た。
いいものは雨なんかじゃ流れない、それはしっかりと心に立っていて、


私は彼女に「なるほどね」と言うしかなかったのです。