刺青・秘密

以前(いつだったかな)ブログで「購入した」と紹介したもの。途中まで読んで、あとは日常に翻弄されて放ったらかしになっていた。
これは短編集だが、サクサクと読み進められる代物ではなかった。この文庫に収録されている話は全て作者初期の短編。これまでに読んだ『細雪』や『鍵・瘋癲老人日記』とはまた違っていた(それらがサクサクといったかと言うと、全然そんなことはなかったが)。変なたとえをすると、喉がじっとりと苦しくなるバタークリームを、大きなスプーンですくって食べているような感じである。『刺青』にしても、『少年』も、『秘密』にしても、陰湿で淫質な空気に呑みこまれそうになった。
この前、停電中に区役所で携帯電話の充電をしている数時間で、残りを読み終えた。私は『異端者の悲しみ』が、いちばん寄り添うように読めて好きであった。「作者唯一の告白書にして懺悔録である自伝小説(裏表紙より)」とのことなので、自伝的な部分から、また学生という境遇から、そのように感じたのかもしれない。

刺青・秘密 (新潮文庫)

刺青・秘密 (新潮文庫)